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Act02-19



 新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)、謁見の間――。
 優雅なファンファーレが鳴り響く中、は中空から自らを見下ろすがごとく皇帝フリードリヒ四世との謁見に参加していた。
 つまり、現実逃避のために魂が飛び出しかける頭で、銀河帝国において領地を封じる諸侯らとともに並んでいた。
 領主の中でも新興貴族、しかも辺境の若すぎる子爵夫人の謁見の順番は諸侯の中でも後の方、立ち位置はこれまで決まって隅であったが、本日はそうではない。
 フリードリヒ四世の座す壇上、玉座の近くには尚書をはじめとしてブラウンシュヴァイク公爵やリッテンハイム侯爵、カストロプ公爵といった錚々たる顔ぶれが揃っているが、その最前列の末席に・フォン・子爵夫人が存在しているのである。
 例年、貢納奏上の謁見は流れ作業であるが、帝国への貢献偉大とされる領主は、有力諸侯の見守る中で皇帝から褒美が授与されるのが習わしであった。
「見よ、あの胸の薔薇!」
「小娘が陛下の薔薇を賜るなど、なんたること!」
 諸侯が集まる待合室に戻ってからここへ並ぶまで、子爵夫人は衆目を集めた。
 青緑のドレスの胸元に、薄紫の薔薇。意匠の凝らされた金色の布地がドレープ状に花弁の周囲を飾っていた。
 式典が始まっても、さざ波のごとき声はやまず、そしてリヒテンラーデ侯爵の口上で彼らの関心は頂点にまで達した。
「領星の発展めざましく、我が帝国への貢献偉大なる領主に皇帝陛下より褒賞の名誉を与える。・フォン・子爵夫人、御前へ」
 呼ばれた黒髪の領主は、周囲に並み居る諸侯らに比べれば背丈も小さい上に年若く、それになんといってもドレスの裾をさばいて歩く少女なのであった。
 祝賀用の緋色の絨毯を辿って御位の下へ歩み寄り、顔を伏せ跪いた小さな子爵夫人に向かってフリードリヒ四世は宣した。
「銀河帝国の忠実なる臣、・フォン・子爵夫人の功労は大なり。これを称えるため、予は臣に相応しき儀をもって報いる。子爵夫人、ここへ」
 女性の身でこの儀を受けるのは、銀河帝国史上、類を見ないことであった。
 名を示され、少女は玉座への階を上がり、銀河帝国第三十六代皇帝フリードリヒ四世の眼前に侍った。
 国務尚書兼帝国宰相代理リヒテンラーデ侯から受け取った御璽入りの儀典用の羊皮紙は、皇帝の手ずから子爵夫人へ与えられた。例年、貢献への褒賞は年金や領地の形で与えられるのがこれまでの常であったが、今年は付け加えられるものがあった。
 異例ながら若き領主へ、薔薇の下賜があることも参集した諸侯へ伝えられた。
子爵領に、予の薔薇を下賜する。子爵夫人の若き才智のごとく、薔薇が子爵領で花開くことを心待ちにしようぞ」
 台詞とは裏腹に、皇帝として盛装をまとうフリードリヒ四世の表情は普段と同じく、退屈と無気力の灰色に彩られている。
「下賜の栄誉に、臣は心より御礼申し上げます。陛下の御厚情に報いられるよう、若輩ではありますが、我らが陛下と銀河帝国の栄光を知らしめるため、日々励みたく存じます」
 が語るのは、あらかじめ用意された通りの口上である。
 国務尚書クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵が場を引き継いだ。
「また、陛下は子爵夫人へ、国務省への出仕をはからうようにと仰せである」
 謁見の間の空気が、揺れた。
 驚きは勿論のことながら、詮索、警戒といった視線がいまだ小さな子爵夫人へ一斉に向けられた。
 御前で顔を伏せた黒髪の少女の表情は見えなかったが、その場にいるどの諸侯よりも愛らしい声が答えた。
「御意」
 立ち上がり、背筋を伸ばして階を降りていく少女を、誰もが見ている。
 ・フォン・子爵夫人とは如何なる者か、という値踏みの視線であった。
 この日、銀河帝国の諸侯らは・フォン・子爵夫人の名を改めて脳裏に刻んだのだった。
 その注目は、式典後の宴でも続いた。
 宮殿内の黒真珠の間において、皇帝が諸侯らの貢献をねぎらう名目で、彼らの妻子を含め銀河帝国内の有力貴族や省庁の高官、帝国軍の将官らが一堂に会し、盛大な宴が催されたのだった。
 通例通り、フリードリヒ四世は宴の冒頭に寵姫グリューネワルト伯爵夫人を伴って現れ、乾杯と簡易な挨拶を済ませるとすぐに退席してしまった。ルートヴィヒ皇太子は体調不良のため、もとから宴は欠席している。皇族の不在も、近年は稀なことではなく、集った貴族らは誰もそのことに気を留めることなどない。
 それよりも、本日の関心事は辺境領を預かる、若き子爵夫人であった。
「おお、今宵の主役と言えばこの麗しき子爵夫人であることよ! 臣として陛下の薔薇を頂戴する誉れを戴く、その才智にこのオットーも感嘆したものだ! 我が娘エリザベートとは昵懇の仲、幼き頃から見知っておるが、かような傑物であったとは、よもやこのオットーも思いもせなんだ。子爵夫人の誉れに、そして栄えある前途に、我らがゴールデンバウムの繁栄に、皆、杯を掲げよ!」
 エリザベートの父であるオットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵は、妻に現皇帝フリードリヒ四世の娘アマーリエを迎える銀河帝国内の有力門閥貴族である。
 皇帝、皇太子不在の宴において、門閥の長であるブラウンシュヴァイク公爵その人は、宴の中心人物のうちのひとりともいえた。
 腐っても大派閥の長、周囲を巻き込む話術は見事なものであり、オットーの掛け声に辺りの貴族らはみな祝杯をあげている。
 その中で、ひとり酒精なしの杯を答礼として掲げるは、もう数時間は貼り付けっぱなしの笑顔で応じる。
「お褒めに預かり恐縮でございます。此度の栄誉に恥じぬよう努めてまいります」
子爵夫人が我がエリザベートとともに歩んでくれること、嬉しく思う。しかし国務省に籍を置いて外務となると、さしもの子爵夫人にも困難が多かろう。何かあれば、我が門家を頼るとよい」
「公爵閣下のお言葉、まことに有難いことでございます。此度のこと、我が身には大きすぎる任ではありますが、陛下より与えられた爵位に伴う義務と心得ております。けれども、この若輩の手に余ることがございましたなら、公の優れたご見識をご教授頂けましたら幸いです」
 頷くオットーの傍らに立つブラウンシュヴァイク公爵夫人、つまりかつて皇女であったアマーリエが声をかけてきた。
「おめでとう、子爵夫人。女性の身にも関わらず、政務で顕彰された貴女は後世に語り継がれるに相応しい偉業を成しました。同じ女性の身として、喜ばしく思います。年若くして大任を得た子爵夫人には困難も多いでしょうが、これからもわたくしたちと共に、ゴールデンバウム王朝を、そしてエリザベートを支えてくださると嬉しいわ」
 どちらかといえば、グルメ事業や婦人方のお茶会でお世話になったアマーリエに恩義を覚えるは、オットーの言葉よりもこの公爵夫人の発言の方が重く感じられるのだった。
 エリザベートによく似たアーモンド形の眼差しで褒めたたえられると、居たたまれない気分になるである。
(ああ、賊軍フラグ)
 内心で頭を抱えるに気付くことなく、エリザベートの母であるところのブラウンシュヴァイク公爵夫人アマーリエは言葉を続ける。
「オーディンを離れる前に、ぜひ一度、屋敷へいらして。あの子も、此度のことを聞けば子爵夫人に自ら祝いの言葉を述べたいと言うでしょうから」
 エリザベートはデビュタント――いわゆる成人に達しておらず、正式な社交場や夜に催されるパーティーには参加できないのだった。一般的に銀河帝国における成人年齢は十六歳であり、その点では十五歳の・フォン・子爵夫人も未成年といえるが、爵位を保持していることから、年齢より肩書きが優先され社交場に出入りしているのであった。
「私も、エリザベート様にご挨拶をしたいと思っておりました。出立する前に、改めてお伺いいたします」
 軽く礼をして頭を上げると、アマーリエが半ばまで開いた扇を口元にあて視線で近くに寄れと告げていた。は距離を縮め、侯爵夫人のそばで耳を傾ける。
「帝都への航路でも問題があったと耳にしましたよ。エリザベートも、不遜の輩をどうにかするようオットー様に頼んでおりましたが……此度の事でわたくし、子爵夫人を幼子と思いエリザベートの傍に招いたことが、浅慮であったかと迷うこともありますの。けれど、エリザベートは貴女がお気に入りだし、わたくしも、来年もまた我が家の花を共に眺めたいと願う気持ちもありますの。貴女も同じお気持ちでしょう? どうか、これからは貴女も身の周りには、さらにお気を付けあそばせ」
 公爵夫人の意図を些か掴み兼ねて、顔を離したはアマーリエの表情を窺ってしまった。
 淑女の鑑のごとく淑やかに微笑んだ貴婦人はそれ以上何も言わず、優雅に話題と関心を外処へ移し去っていく。
 身辺の安全に気を配れと言われた気もするが、エリザベートとの付き合いを継続するなら身綺麗にして旗色を鮮明にせよ、と言っているように聞こえなくもない。
 しかしながら、ブラウンシュヴァイク公爵家との関係を破綻させないためには、今後は政治的な動きを念頭におかねばならなくなったのだ、ということだけは理解できるである。
(さよなら、私の安穏辺境生活)
 その後、ブラウンシュヴァイク公爵らの人垣を離れると、すぐにリヒテンラーデ侯爵家門や彼の側近らしき人々に囲まれ、再び賛辞を浴びることになった。
 リヒテンラーデ侯爵家に連なる家人は、その多くが国務省や財務省といった主要省庁へ出仕しており、官僚一族と呼ぶに相応しい陣容である。また、クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵はフリードリヒ四世の登極とともに世に出た立場であったためか、側近として紹介された人々の階級は、子爵家以下の者が多く、門閥との違いが感じられるである。
 ある種、リヒテンラーデ侯爵が能力主義で人を測る実務者であったからこそ、将来ラインハルトと手を組むことができたのであろうし、また年端もいかぬ子爵夫人を使って政治工作を目論むことも思いつくのであろう。にとっては冥界の喇叭を吹かれる気分であるが、銀河帝国の政務において重責を担う実質的な宰相閣下からしてみれば、手近に使いやすい駒が転がっていれば使おうと考えるのは当然なのかもしれなかった。
(どこで間違えた……でもヨハンナ母様の出自はの立場ではどうにもならなかった……適度に友好的にと言わず、誘いを全部断ればよかったのか)
 もとはと言えば、リヒテンラーデ侯爵の示した淑女の好む場や話題を完全にスルーし、嬉々として領地の政務を語らい、自らの興味の赴くまま銀河帝国に生きてきた自分自身の問題であると、に指摘するものは勿論この場にはいない。
 余人の手前、政争や密約について会話することはなく、猛禽類のごとき鋭い顔貌の国務尚書は、その場にいた主要な文官――ゲルラッハ副宰相、ワイツ主席政務補佐官といった、どこかで聞いた名だな、という面子である――や、自身の息子や係累らも紹介してくれた。
「はじめまして従妹殿。なかなかお会いする機会がなかったが、貴女の誉れある日に会えたことを嬉しく思う。領地における政策の着眼点が素晴らしいと、父も子爵夫人をいつも褒めたたえているよ」
 クラウスの長男であるヴェルナー・フォン・リヒテンラーデはその父と似通った鋭い眼差しを持つ少壮の男性で、折り目正しい印象を受ける人物である。父クラウスの権謀術数を教授された政治官僚エリートが全くの善人とは思えないものの、表面上はとても友好的な態度をこちらに示している。
「私はエトガー・フォン・メルダースと申します。陛下に薔薇を賜る素晴らしいご見識をお持ちの子爵夫人にご挨拶できること、光栄に思います」
 次いで紹介された杏子色の髪を持つエトガーは二十代前半ごろの若者で、リヒテンラーデ侯爵の補佐官を務めているという。銀河帝国政治の中枢を担う宰相職には幾人もの補佐官がついており、そのうちの一人、年齢からも見習いというところである。
「彼は遠縁の子で、優秀さを見込んで補佐官として政務を手伝ってもらっている。子爵夫人とも年頃も近い。これから連絡役を担ってもらうつもりだ」
「改めまして、・フォン・子爵夫人です。右も左もわからぬ若輩なので、皆様に諸々ご教授賜りたく存じます」
 は、礼儀に則って丁寧に挨拶を送る。笑顔は無料であり、愛想はいくらばら撒いても損はない、と平和を愛するは思うのだった。それが真綿の如く自らの足元を危うくしているのか、それとも盤石にしているのか、未来は判断しかねるのだが、少なくともいまこの瞬間、としてのがリヒテンラーデ一門に無礼を働く積極的な理由もないのだから、やはり適度に友好的にと振舞ってしまうのだった。
(ああ、郎党皆殺しフラグ)
 などとは、口が裂けても言葉にはしないのだが、眼前で語らう皆様方が数年後にはリヒテンラーデ侯爵とあの世の道行をともにするのだと考えると、雑談を楽しむ気分にはならない。
 振られた話題に適当に相槌を打ち終えると、リヒテンラーデ侯爵らに断りを入れ、は骨休めへと逃げ出すことにした。
「ああ、それならばメルダース補佐官に付き添ってもらいなさい」
 伯父上のご配慮を遠慮すべきか迷ったが、この場から逃げ出すことが目的であり、途中で面倒な貴族に捕まることも避けたいは手を差し出す若き官僚の手を取ることにした。
子爵夫人、委細は後日改めて。今宵は楽しむがよかろう」
 クラウス・フォン・リヒテンラーデの別れの挨拶も、皮肉に富んでいる。
 彼はこちらの内心――楽しむどころではなく、いまこの瞬間にも敵味方を選別せねばならないスリリングな状況に置かれていること――を理解しているに違いないのだから。
 暗澹とした気分を表情に出さぬよう気を使いつつ、は杏子色の髪を持つメルダース補佐官と共に歩き出す。
「どちらへ向かわれますか?」
 まだ大学を出たばかりのような若々しさを纏ったリヒテンラーデ一門の青年は、緊張した様子で質問を向けてきた。
「ええっと、ご挨拶したい方が数人おりますので、少し歩いてお見掛けしたならそちらへ。見当たらなければ、休憩の間に寄ろうと思います」
 としては、本日この場にいるはずのミュッケンベルガー上級大将に、サイオキシン麻薬云々の具体的すぎる話はともかく、巻き込まれた『政争』についての渡りをつけておきたいのだった。彼は領主貴族ではないが、軍高官として宴に招かれているとは知っていた。
(ユリウス様やディートハルト様もいるのかな)
 連絡は取ってはいないが、いずれも伯爵継嗣、ミュッケンベルガー伯爵その人となった二人であるから、名のある貴族が一堂に会す社交の場に足を運ぶ必要もあるだろう。
 歩きがてら、は隣の補佐官と雑談を交わし、情報収集を試みる。
 曰く、メルダース補佐官は病がちの父の為に進学もままならなかったところ、成績優秀であることから縁戚のリヒテンラーデ侯爵に支援を受け、オーディン帝国大学を卒業、晴れて国務省へ務めることになったという。
「宰相閣下は私のような家門の端くれにも、目をかけて下さいます。政務でご多忙の閣下の一助になれるよう、できる限りのご奉仕を差し上げたいと思っております」
 瞳を輝かせて語ってくれる補佐官には、リヒテンラーデ侯爵が救世の宰相のごとく見えているのだろう。
 貴女も同じ気持ちであろう、と暗に問う若者に、は自分でも嫌になるほど上手に微笑むのだった。
「素晴らしいことですね。わたくしは宰相閣下に及ぶべくもありませんが、此度の栄誉に恥じぬよう励みたいと思っておりますので、メルダース補佐官もどうぞお力添えくださいね」
 の言葉に顔を明るくした補佐官は、勿論、と協力を請け負ってくれた。
 空虚な会話と笑顔の影で、の腹の内には苦いものが拡がる。
 一体、この場のどれほどの人々が、五年後も同じように暮らしているのだろうか。
 未来を知るこの手に握った手札に、どれほどの力があるのだろうか。
(その前に『政争』をうまくクリアできなければ、自分が退場させられかねないか)
 はほの暗い未来予測に蓋をして、眼前の問題処理を優先することにする。
 誰と会話するにしても、リヒテンラーデ侯爵に話が筒抜けなのは面白くない。さて、どのようにしてリヒテンラーデ子飼いのメルダース補佐官を撒くべきか、と考えたところで左前方から見知った顔が歩み寄ってきた。
 大きな体躯で人波をすりぬけて、彼――ディートハルト・フォン・ミュッケンベルガーはの眼前までやってきた。
 秋の落葉を思わせる明るい茶の髪、本日は宮廷位階を優先する場であるから帝国軍の制服ではなく、爵位に相応しい衣装を纏っているのだが、立派な体躯には少し窮屈そうにみえるである。
「ごきげんよう、ミュッケンベルガー伯爵」
「ご無沙汰しております、子爵夫人。政務に邁進なさる子爵夫人の貢献を陛下がお認めくださったこと、心よりお祝い申し上げます」
 衆目を憚り、互いに他人行儀な挨拶を交わす。
 本来は相手のエスコートを待つところ、は素早くメルダース補佐官の腕を放して身を翻し、ディートハルトの傍へ位置を移した。まさか貴婦人が、かように機敏に動くとは思わなかったのであろう、補佐官は呆気に取られていた。
「ここまでありがとうございました、メルダース補佐官。祖父ともどもお世話になっているミュッケンベルガー上級大将にも本日ご挨拶差し上げたいので、こちらで失礼させていただきます」
 国務尚書閣下との繋ぎは血縁続きであるから、メルダース補佐官は本来であれば連絡役として必要がない。
 それにも関わらず、あえて若き青年を紹介し、お目付け役にしたのは、裏の作為があるのではなかろうか、とは思うのだった。
 はディートハルトの腕に両手を添え、若き伯爵の顔を仰ぎ見る。暗緑色の瞳に視線を合わせ、淑やかに微笑んでみた。
 一昨年、ミュッケンベルガー伯爵その人となったディートハルトは、一瞬眉根を寄せたものの、すぐに逡巡を消して頷いた。
「……祖父も子爵夫人にご挨拶したいそうで、探すよう仰せつかってきたのです。行きましょう」
 のこの場を離れるべしという意図が伝わったようで、ディートハルトは先導役として若き子爵夫人をいざないってメルダース補佐官へ軽く礼を送り、背後の視線がなくなるまで二人は歩調を揃えて進むのだった。


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