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  往復書簡05  



 とユリウスの手紙のやりとりは、七月へ入ると超光速通信を利用したヴィジホンでの会話へ移行した。ユリウスがオーディンを離れ、フェザーンへ長期滞在することになったからだ。オーディンと子爵領間の距離ならば手紙を出して相手へ届くまで片道四日で済むが、フェザーンへは早くとも十日はかかる。やり取りが一往復するのに半月以上では、不便この上ない。
 子爵領への訪問の件もあり、通信の迅速性が必要というユリウスの提案を受けたは、喜んで賛成した。ただ、超光速通信は何千光年を越えての通信というハイテク技術を利用し、またその通信の利用者も限られている(星系間通信など、平民は使う機会はないのだ)ためコストが高く、とユリウスは頻繁に長時間の会話を交わすわけではなかった。頻度としては十日に一度、十五分ほどで通話を終える流れが、とユリウスの間では暗黙の了解となっていた。
 夕食を終え、図書室で銀河帝国における宗教の変遷についての資料を漁っていると、ノックが響いて執事のクラウスが顔を覗かせた。
「お嬢様、おくつろぎのところ失礼致します。ヴィーゼ家のユリウス様よりヴィジホンが入っております。いかがなさいますか?」
 いつ見ても執事の模範のような佇まいのクラウスから知らせを受け、は地球教の項目など全く見つからなかった本を閉じて立ち上がった。
「いま参ります」
 通信室へ先導してくれるクラウスの背に従いつつ、は十歳という身の上の不便さを改めて思わざるを得ない。
(子供だから、保護者とか家人経由でしか連絡とれないんだよね。携帯電話に慣れた身としては、面倒だわ)
 技術的には自室に直通回線を敷くことも可能だが、やはり幼い娘の交友関係は親の監督下に置かれるのは古今東西変わらぬようで、ユリウスからの連絡はいつも屋敷の誰もが知りうる形でしか受け取れないのだった。つまり、いつかかってきて、どのような会話をしているかも殆ど筒抜けと言って良い。知られて困る会話をする気はないが、私的な会話が周囲に丸聞こえというのは気分が良いものではない。
(子供って不便よね)
 今更ながら精神と肉体のギャップに悩みつつ、はヴィジホン脇の姿見で服装を上から下まであらため、通信機の前に立った。音声のみではないので、格好にも気を抜けないのである。
 ヴィジホンの画面には穏やかな湖の風景が浮かんでいる。さながら保留中のクラッシック音楽といったところだ。
 傍の操作盤でクラウスが通話ボタンを押したが、しかしすぐにユリウスが現れる訳ではなく、画面も通信相手を映し出したりはしない。この最初の通話ボタンは、相手に対して通話の用意が出来たと知らせるためのものだからだ。そして相手側が応答ボタンを押すと、メインの画面ではなく操作盤のある小さなモニターに、通信をかけてきた側の顔が映る。貴族である場合は間に使用人を介すのが普通なので、子爵家の執事はヴィーゼ家の使用人とこういう場合の定型文的やり取りを交わし、そしてようやくとユリウスがヴィジホンで話す準備が整うのだった。
 クラウスが二度目の通話ボタンを押すと、湖の映像が切り替わり、の目の前にユリウスの姿が映し出された。役目を終えたクラウスは、一礼して素早く退室していく。
「こんばんは、嬢。お変わりありませんか?」
 相変わらず笑顔が輝いている。人柄の良さが滲み出るようだと、すれた大人のは時に我が身を反省することがある。自分の笑顔は、年相応の幼い可愛さを装えているか少々気になるところだ。
「ご機嫌よう、ユリウス様。私は以前にご連絡頂いた日から今日まで、殆どお屋敷で大層平和な日常を過ごしておりました。ユリウス様こそ、フェザーンまでの長旅、お疲れではありませんか?」
 以前に連絡を貰ったのは二週間ほど前で、ユリウスがオーディンを出発する前日のことだった。長い旅路を飛ぶ宇宙船、しかもヴィーゼ伯爵家所有の船ならば内装も豪華で地上と同じように不自由なく過ごせるだろうが、散策などもしにくい空間に閉じ込められる気詰まりもあるだろう。
 ユリウスは穏やかな面持ちながら、それなりに疲れたと、の問いかけを肯定した。
「さすがに十日以上の航行は堪えます。幸い宇宙酔いはしない質だから、辛いのは身体ではなくて息抜きの手立てが少ないことでしたが。お陰で随分と勉強がはかどりましたよ」
 は気付いて、椅子に掛けて話すことを提案した。ヴィジホンで会話する際は一般的に立ったまま挨拶し、長話の時には折を見て椅子を勧めるものなのだ(との知識から教わった)。
 画面越しに腰を据えたことを互いに確認し、はまずフェザーンの様子を訊ねた。銀河帝国における経済の中心地と言っても過言ではないフェザーン自治領の雰囲気がどのようなものか、は多大なる関心を抱いているのだ。
「フェザーンはいかがですか? 行ったことがないので想像がつかないのですけれど、やっぱり人が沢山いて、街も賑わっているのではないですか?」
「そうですね、帝都のような煌びやかさとはまた違った輝きのある街です。人の往来も多く、繁華街には看板が無数にあって、商売が盛んなのだと一目で知れます。まだ到着したばかりであまり見回っていませんが、服装も僕たちが普段着るようなものではなく、簡略化した平民服が主流のようですね。店先には見慣れぬ品が溢れているのですが、もしかすると自由惑星同盟から流れてきているものかもしれません」
(おお、同盟側の商品もやっぱり普通に売ってるんだ。気になる!)
 俄然、フェザーンへ行く気が増したである。心の中で『銀河帝国でやってみせるぞリスト』へ加えておくことにする。
 ユリウスはがフェザーン話に関心を見せたからだろう、さらにオーディンとフェザーンの建築様式の違いや、機械化・合理化されたシステム、立体テレビでみかけた娯楽番組の内容を幾つか上げて説明してくれた。
 フェザーン自治領には自由惑星同盟との貿易が認められており、銀河帝国の本国とはまた違った経済の循環や独自の文化が発展していることは、考えなくとも判る。しかしフェザーン内で流通している娯楽文化や大衆向けの商品は、こちらへは流れてこない。臣民を惑わすものが国内に蔓延っては、皇帝の威信が揺らぐ脅威となるからだろう。
(そんなことしてるから、フェザーンに経済や情報を牛耳られちゃうんだよ)
 余計なお世話かもしれないが、未来情報を知るとしてはフェザーンの魔手が帝国へ浸透するのを看過するのは、どうも恐ろしい気がしてしまうのだ。この場合の魔手の浸透とは、フェザーンが銀河帝国の高官や大貴族に影響力を行使できる状態を整えることを意味する。また、何も人間に対してのみではなく、フェザーンが帝国経済に負債を負わせるほどに、かの自治領の帝国に対する権力は増大するだろう。それに地球教の件もある。フェザーンへの疑問や警戒心は尽きることがなく、としては陰謀の根に繋がる情報は多いほど良いのだ。ちなみに簡単に調べたところ、現在の自治領主はまだアドリアン・ルビンスキーではないことが判っている。ルビンスキーは五代目だったから、四代目にあたるワレンコフという三十代に差し掛かったばかりの若い男がフェザーン自治領主の地位にあるらしい。現在のフェザーンの体制や方針は、が物語で知ったルビンスキーのそれと共通しているかどうかは、フェザーンから数千光年隔たった帝国の辺境では判断できなかった。
 だからはユリウスに、フェザーンの情報を大いにねだるつもりだった。ユリウスはまさか目の前の少女が銀河帝国の行く末やフェザーンの負の面を憂慮しているとは思わぬだろうが、友人の好奇心には応じてくれるだろう。
(でも訊くのは今度会うときでも構わないかな。まだフェザーンに着いたばかりだし、もっと沢山情報を仕入れてもらってから…)
 なんだか純粋な友人付き合いをしているとは胸を張って言えないような不純な思惑はあるが、有益な情報を貰った分はこっそり返礼したいものだった。
 今日のところのフェザーンに関する話を一通り披露し終えたユリウスは、そういえば、と前置きして話題を転換させた。子爵領訪問の件である。
「以前に少し話したけれど、フェザーンからの帰路に貴女に会いに行こうと思っているのですが、日程は八月の二十日前後のいつがよろしいですか?」
「私は領地を離れる予定がないので、ユリウス様のご都合のよろしいようになさって下さい」
「わかりました、それでは来月上旬には予定を決めてお伝えします。会う場所はどこに致しましょう?」
 は問われて首を傾げた。どこで会うも何も、ユリウスは子爵家へ遊びに来るのではないだろうか。
「ユリウス様は、当家へいらっしゃるのではありませんか?」
「……構わないのですか?」
 少し躊躇い含みに改めて問い直したユリウスに、は何を遠慮することがあるのだろうと、大きく頷いて微笑みを返した。
「勿論! あ、何泊かなさいますよね。何もない辺境惑星ですが、ゆっくり滞在なさって下さい。当家の屋敷近くには風光明媚な場所も沢山ありますし、ちょうど気候も暖かな時期ですから、ピクニックするのも良さそうです」
 の中では既に幾つかの観光ルートが検討されているし、更に詳細情報を集めようと領内の地理や名物を漁っているところだった。
 ユリウスはなおも慎重に問うた。
「お招きは嬉しく思いますが、嬢の御両親は、何と仰いますでしょう」
「あ、伝えたら大歓迎と申しておりましたよ」
 いまだ幼い娘としては、友人が遊びに来る件を両親にお伺いを立てねばならぬだろうと、はユリウスから訪問の打診を受けた時点でカールとヨハンナ、そしてコンラッドに話を通しておいたのである。
 六月末の夕食時に、は覚悟をもって両親にユリウス来訪の件を打ち明けた。その際のカールとヨハンナの反応は、推して知るべしである。
 ナイフとフォークの動きをぴたりと止めた二人は、互いに顔を見合わせ、次いで勢い込んで言った。
「まあ、まあ! まさかこのように早くヴィーゼ家のご令息をお招きすることになるなんて、母も思っておりませんでした」
「さすがは私たちのというところだな。やはりヴィーゼ家の彼もの魅力に、遠く数百光年隔たっていても気付かざるをえなかったんだろう」
「ヴィーゼ伯爵家の方を招くのですもの、それなりに華やかな宴なども催さなくては。それにの衣装も新しくしつらえませんと」
「僕は青が良いと思う。夏には目に涼しい色だし、黒にも映える」
 親馬鹿全開で娘を称え、話を大きくしていく二人に、は気圧されて引き気味に確認した。
「あ、あの、そんな大層な話では…友人が遊びに来るというだけですよ? ユリウス様は、お友達ですよ?」
「あら、わかっておりますわ。家にお招きするほど親しい友人ですのよ、そういう意味ですのよね?」
(何が!? どういう意味!?)
 友人の部分を強調して念押ししてみても、カールとヨハンナは晴れやかな笑顔で頷くばかりだった。
 しかし同席していた祖父コンラッドは親馬鹿二人とは違い、口を引き結び思案顔をしていることに、は気付く。
「あの、お祖父様、ユリウス様をお招きしてはいけませんか?」
 コンラッドには何か懸案があるのだろうか。ヴィーゼ伯爵家と親しくなってはいけない理由があっても、貴族社会に疎いにはわからないのである。個人的に面白い会話の出来るユリウスと今後も親交を深めたいと思っているため、少し困惑を滲ませて祖父に懇願してみる。
 の祖父は、孫娘を見据えて穏やかに幾つかの質問を投げ掛けた。
「お前はヴィーゼ家の令息と会って、何をしたいのだね?」
「経済のお話をしましょうって以前に約束しましたし、今度ユリウス様はフェザーン自治領へいらっしゃるとのことですから、帰路にこちらへ寄って頂いた際にはフェザーンのお話を訊きたいと思っています」
「相手の方も、そう思っているのかな? そもそも、あちらから当家に来たいと言い出したのか?」
 は手紙の文面を思い浮かべ、祖父の発言に訂正を加えた。
「ユリウス様は、貴女と会って話がしたいと仰せでした。とはいえ、遠路はるばるいらっしゃるのだし、私がユリウス様を当家にお招きするつもりでいたので、こうしてお祖父様やお母様たちにお伺いしているのです」
 コンラッドは険しい表情を緩め、仕方のない子だという風に苦笑したようにには見えた。
「ふっ、そうか。心配は無用のようだな」
(…何の心配?)
 この問答でコンラッドがどのような結論に至ったのかは理解出来なかったが、晴れてコンラッドからの許可も与えられ、はユリウスを屋敷へ迎えることができるようになった。ただし、コンラッドは大仰な宴は必要ないと両親に釘を刺し、『友人』を迎える慎ましやかな食事会を家族のみで開くことに相成った。いうなれば普通の夕食にゲストを迎えるだけの話だ。としては、再び拷問ドレスを味わう苦しみを免除され安堵の気持ちでいっぱいだ。
 子爵家の夕食の席で交わされた会話をかいつまんで説明し、だから遠慮なく来てくれとユリウスを誘った。
「それに、私はまだまだユリウス様とお話したいことが沢山あるんです。ほら、以前に送って下さった経済データの分析の件や、それに近頃私も小さいながら食べ物を出す店を構えることにしたんです。オーディンで売れるかどうか、ユリウス様に見て頂きたいのです。何だか私の都合ばかり申し上げていますけれど、ユリウス様が嫌じゃなければ、お相手して下さると嬉しいと心底から思っているのですが、いかがですか?」
 は調子が良すぎる願いかと恐る恐る訊ねたものの、画面の向こうでユリウスは若草色の瞳を細め、堪えきれぬというように笑った。
「ああ、うん、そうですね。そういうことでしたら、何泊か滞在させていただいてもよろしいですか? 貴女が開いた店というのも興味がありますし、経済の話は僕もしたいと思っています」
「ええ、どうぞいらしてください。楽しみにお待ちしておりますから」
 詳細は後日まとめることにして、とユリウスは通信を終えるために再び立ち上がった。
嬢、貴女と話していると時を忘れてしまいますね」
「お疲れなのに長くお話にお付き合い下さってありがとうございます。楽しい一時でした」
「僕も同じ気持ちです」
 ユリウスは穏やかにに同意した後、つかのまを置いて囁くような声で、どことなく寂しさを滲ませ呟いた。
「…本当に、貴女は得難い人だ」
(ユリウス様?)
 単純に受け取れば褒め言葉なのだろうが、それにしてはユリウスの表情は晴れない。気掛かりではあったがは疑問を口にする機会を見つけられず、次の連絡を十日後に行う約束と別れの挨拶を交わして、ヴィジホンでの通信を終えた。
 心に引っかかったユリウスの声についてはその晩ベッドの中で思案したが、いつの間にか眠りに落ち、そして何日か代わり映えのしない平穏な日常を過ごす内にすっかり忘れ去ってしまった。


 通信を終えたユリウスが胸に僅かな温もりを抱いて振り向くと、子爵家側からは見えぬ位置に立っていたユリウスの護衛の無表情が目に入った。ユリウスは、心地よい会話で宿った熱が急速に醒めていくのを感じた。
 護衛のヴァルター・ゲーリング大尉は三十代半ばの中肉中背の軍人で、三年前からユリウスの生活を見守るというよりは、監視する男だった。ゲーリングが護衛となったのはユリウスが屋敷を追い出された直後のことで、ユリウスはこの護衛が父ハインリヒに定期的に連絡を取っていることを知っている。更に父から何を言われているのか、時にユリウスの行状に差し出口をするので、父が居なければ何も出来ない人間とみなされている気持ちになって、ユリウスはゲーリングの存在が疎ましく思えることもあった。
 通信室を出て居室へ向かう道すがら、ゲーリングは言った。
「よろしいのですか」
「何が?」
 ゲーリングは機械的に喋り、何を考えているのかわからない顔つきしかいつも見せない。
「お判りでしょうに。旦那様はユリウス様に仰ったのではありませんか、良い縁談がおありと…」
 ユリウスは不快の方向へ傾きつつある己の機嫌を自覚した。だが表面上は普段と変わらぬ顔をしているだろう。相手が腹の内を隠すのならば、彼もそうするだけだった。
「僕が誰と何を話し、どう付き合おうが父上には関係のないことだ。それに彼女は単なる友人だ。勘繰りはやめてほしい」
「御領地の屋敷に招かれるほどであるのに?」
「さっきの会話を見ていれば判るだろう。彼女は、貴族の常識など気にかけない方だ。さしたる意味もない」
「演技なのやも」
 ユリウスは鼻で笑った。汚れた者は、汚れた見方しかできないのだろう。
 確かに一度しか会わぬ相手に家に招かれるというのは、そうあることではない。しかも、異性の少女からの誘いだ。ヴィーゼ伯爵家との繋がりを表沙汰にすることで、何らかの利益を得ようと画策しているのではないかと疑うこともできた。
 互いの家以外の場で会うことはデートの一種で、それは個人的な付き合いの範疇に留まる。しかし、『家』で会うことは公に属する事態なのだった。つまり、互いの家族、そして世間(この場合は貴族社会)に向けて、互いに親しいことを公表することと同義であり、貴族の家柄の者にとっては『家へ招く』ことには大きな意味がある。ゆえに、ユリウスはに無邪気に誘われて、戸惑いを感じたのも事実である。ゲーリングのように、演技かと怪しみもした。
 だが、これが罠であろうとなかろうとユリウスは既に子爵領へ赴くことに決めていた。ヴィーゼ家の嫡男として歳頃の女性と接する機会も多く、それなりに相手の真意を測る感覚も磨いてきたのだ、は他意なく誘ったのだろうと予想もできる。
「演技でも構わないさ。父上には好きなように伝えるといい」
 フェザーンで寝泊まりする自室へ辿り着いたユリウスは、軽く手を振って父の忠実なる部下を下がらせた。
 室内に一人きりとなり、胸元のスカーフを緩めながら彼は夕食を食べ忘れたことを思い出す。栄養添加クラッカーとコーヒーの用意を通信機で言いつけ、更に思いついて別の使用人に子爵家の情報をまとめるよう命令する。
 子爵家との付き合いで懸念があるとすれば、の両親にあたる人々の作為だろう。もし面倒なことがあるなら、子爵家の幼い令嬢との付き合いも見直すことも考えねばならなかった。それは父に言われずとも、自身の身を弁えられるのだと証明しなければならないユリウスの自衛策であった。彼は確かにを好ましく思っていたが、自らの生活や地位全てを捨てる気にはなれはしない。
 ユリウスは一連の思考を済ませて、他人のことを汚いなどと言えるはずもない自身に呆れた。
(ああ、汚いのは僕自身だ)
 平民であればこのような苦労はないのだろうかとユリウスは埒もない仮定をして、だが己がヴィーゼ伯爵家のくびきから逃れられはしないのだと、そしてまた自ら伯爵家の嫡男という地位を手放す気はないのだと、喉の奥で笑った。

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