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なぜ私だったのだろう、と考える。
なぜ私でなければならなかったのだろう、と。


例えばそれが偶然だったとする。
私が生まれ、名を与えられ、健やかに育ち、何の曇りもない世界で、平和に、たまに些細なことに悲しんだり怒ったりして生きてきた、そんな自分がこのような状況に至るということ。
私は私の生まれた場所から、関係から切り離されて、刻んだ時からさえも自由になって、けれども確実に今までの自我を抱えたまま、何も知らない場所へと放り込まれる。
習慣だって、歴史だってわからない。
知り合いもいない。
どこで暮らして、食べて、服を買えばいいかも分からない。
自分の身に染みていたもの全てを漂白されて、けれども私はそれらを覚えている。

だからわからない。
中途半端な人生のまま飛ばされた自分が、何をすればいいのか。
どうやって、というのは案外単純なものだ。衣食住さえ確保すればいい。
でも、何故。
何故、私はここで生きていく?
私は私のまま生きていく?

それは世界が許しはしない。今までの全ての知識、作法は通用しない。
何もかもがわからないまま。

私は、私という存在は、変わらなければならなくなったのだった。




00.始まりは突然に





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